新素材の表現

CUSTOM V2

https://ms.citizen.jp/assets/056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_01

 腕時計の素材として、ステンレスが主流であった70 年代。この「特殊軽合金」による「黒い」外装はかなりセンセーショナルに市場に登場しました。こうした新素材への取り組みを他社に先駆けて行うのは、現在へと続くシチズンのものづくりの姿勢と言えます。
 「この新素材をいかに美しく表現するか」という視点でこのモデルを見ると、非常に上手くまとめられています。円錐形状によって造形されたベゼルの無いモダンな造形。ケース側面部分も垂直面ではなく、ケース内側方向へ傾斜させた斜面によって造形することで、円錐面との稜線がモダンな造形にあっても無機質にならずに正面や側面など、どこから見ても表情のあるキャラクターラインを生み出しています。ケース裏斜面も高めの位置に稜線を設定することで、ケースの厚みを感じさせない、互いの稜線が良いバランスになるよう
に配慮されています。
 ケース、バンド、文字板と主たる構成部品が全て「黒」によって構成される中、見返し部分のリングパーツの鏡面仕上げによるシルバーカラーは非常に良いアクセントになっており、全体を引き締めています。また時字や針に施された発色の良い「オレンジ」によって非常に新鮮なカラー表現がなされていて、ケースの新素材によるモダン表現と相まってこのモデルの印象をより強いものと
しています。

056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_02シンプルな線で構成された上面のデザイン。ベゼルの無いデザインで円錐面で構成されたケース上面、黒い外装と相まって力強いモダンな印象を与えます。

056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_03ケースを薄く見せるように、各稜線の位置など工夫されています。塊感を強く感じます。

056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_04文字板とガラスの間に質感の異なる金属リングを配置することで視覚的に文字板からガラスまでの距離を薄く見せる効果があります。ケース上面の円錐面とケース横の斜面による「稜線」は表情豊かで微妙なラインを形成しています。

056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_07ガラス上面がケースからかなり上に出ています。ケース横の面も「垂直面」ではなく「斜面」になっていることで良いデザインラインを形成しています。ケースを薄く見せるように各稜線の位置なども工夫されています。

056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_10ケース裏面は切削加工が可能な形状でデザイン処理が施されています。ケース下斜面も、ケースを薄く見せるように広めに取られています。

056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_05裏ぶたは全て鏡面仕上げとなっています。文字などはプレス加工によって刻印されています。

056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_08「CITIZEN」を表す“CTZ”の文字が凸文字・鏡面仕上げで表現されています。

056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_11バンド本体は材料をプレスで抜いて、曲げて加工していると思われます。

056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_06中留めカバー部分に刻印されている“CITIZEN”ロゴは、良く見ると文字の内側に斜面が入っています。

056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_09文字板外周部に配置された鏡面仕上げの金属リングが鮮烈な印象を与えます。アラビア数字が高彩度のオレンジによって印刷されているのでコントラストの効いた力強い表現になっています。

056_07-01_カスタムV2 (ブラッキー)_123時位置の植窓の内側斜面部分は 12時 - 6時方向の斜面に比べて、3時 - 9時方向の斜面の方が少し広めに設計されています。日板・曜板の視認性への配慮と考えられます。

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レトロフューチャー

 70 年代、時刻表示の新しい表示方式であるデジタル表示が開発されました。それは当時、近未来時計への期待を感じさせる表示機能でした。  この時計はデジタル表示の有効性を活かし、カリキュレーター(電卓)機能を初めて腕時計に追加するという発想のもとデザインされました。  時計と電卓機能の共有化を成し遂げた国産初の腕時計は、中央に表示モニター/外周に放射状に23 個のプッシュボタンを配置するという個性的なデザインスタイルで表現されています。腕時計のケースの基本である丸形状での表現をやり遂げたことが腕時計デザイナーならではの発想だと感じます。  15 度刻みに配置されたプッシュボタンの人工的な輝き。ケースとバンドの凹凸の無いシンプルなライン。これらは従来の挽き加工によるものであり、厚みのあるケースとクールなデジタル表示の組合せは新旧技術のアンバランスなレトロフューチャー感を生み出しています。  加えてこの初期モデルは金色で統一され、外装には各部材に異なる質感を持つ金色を巧みに使い分け、派手な色調にも関わらず品のある趣を醸しだしています。  特徴のある操作ボタンのレイアウトはスタンダードとはなりませんでしたが、先陣を切ったカッコよさ、誇りを感じさせます。

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最小認知要素から 装飾するプロセス

 「バンド・針・丸」これは人々が腕時計と認知できる最小構成要素です。  ◆腕時計は、バンドがあっての“腕”時計である。  ◆腕時計は、針があっての腕“時計”である。  ◆時間は、繰り返される天体の周期(丸)から   作られた。  本モデルは、この3 つの要素に焦点を当てた「腕時計」のデザインのお手本のように思います。これらの3つの要素に豪華な装飾を施すことで、他の要素との主従関係をはっきりさせています。  ユーザーが求める「腕時計らしさ」と、ユーザーが満足する「装飾品としての美しさ」を兼ね備えた、全ての腕時計のお手本ではないでしょうか。