2023年春に工芸工業デザイン学科の3年生に初めての協力授業を実施しました。2024年も再びご縁をいただき、2回目の協力授業を行うこととなりました。今年度の対象は2年生と3年生です。
初回のオリエンテーションは大学で行い、シチズンの歴史やデザイン業務の内容、そして協力授業のテーマや事前課題について説明を行いました。多くの学生が腕時計を身につけておらず、所有していない学生も多かったため、時計に対する関心が薄いのではないかと少し心配していました。しかし、実際に時計のサンプルを手に取ると、みなさん興味深く見入っており、いくつか質問も頂きました。このことから、少しでも時計に興味を持ってくれたのではないかと思いました。
腕時計の価値を再考する
2024年の授業のテーマは、昨年に引き続き「MY STYLE」。時計をしない(興味を持っていない、情報がない)世代の学生に対して、自分が欲しいと思える時計を基点にデザインするという課題です。スマートウオッチのような時計を用いたサービスのデザイン提案ではなく、腕時計そのものが持つ価値をデザインすることに注力してもらいました。また、私たちのデザインフィロソフィーである「感情のデザイン」についても説明を行い、そのプロセスを課題に取り入れてもらいました。
事前課題として、学生のみなさんには「自分が欲しいもの」についてイメージボードを2枚作成してもらいました。1つ目は、自分の予算で購入できる範囲内の「今、欲しいもの」、2つ目は予算無制限で「いつか欲しいもの」です。これにより、まず自分が欲しいものを考え、次に周囲の人々の欲しいものを観察することで、課題に取り組む際のアイデアやヒントを得てもらうことを目的としました。
その後、学生のみなさんを社内にあるシチズンミュージアムに招待しました。館内をじっくり案内し、シチズンや腕時計についての理解を深めてもらいました。その後、学生のみなさんには「今、欲しいもの」と「いつか欲しいもの」について事前課題を発表してもらいました。
「今、欲しいもの」は、カメラや3Dプリンター、家電、靴、コスメなど、実用的かつ美大生らしい個性的なアイテムが挙げられました。一方で、「いつか欲しいもの」には、中庭のある家、暖炉のある家、サウナ付きの家など、生活の質を高めるような内容が多く見受けられました。
授業の様子
協力授業の期間は約5週間でした。私たちは講師として週1回大学に出向き、学生のみなさんの進捗状況を確認し、アドバイスを行いながら授業を進めました。私自身初めての協力授業ということもあり、指導の難しさを痛感しました。自由な発想を尊重しつつも、企業の立場として現実的な視点や実務的なアドバイスをどこまで加えるべきか、そのバランスが非常に難しかったです。しかし、学生のみなさんは素直にアドバイスを受け入れ、積極的に質問をしてくれたので、次第に指導の進め方にも慣れていきました。
毎週授業に参加する度に、学生のみなさんが新しい発想を次々に生み出しているのを目の当たりにし、彼らの学びに対する純粋な姿勢に刺激を受けました。私自身もデザインの基本に立ち返ることができたように感じています。
学び合うことで生まれた成長
最終プレゼンテーションでは、学生のみなさんが制作した作品はどれも予想以上に素晴らしく、個性が光るものばかりでした。当日は社内の関係者も視聴しており、その完成度に驚いていました。
2年生は、インダストリアルデザイン専攻に分かれて間もないタイミングでこの課題に取り組むことになったため、進め方に戸惑う部分も多かったと思います。それでも、2年生ならではのフレッシュな発想やエネルギーにあふれたスケッチはどれも魅力的で、印象に残るものばかりでした。一方で3年生は、思考力や分析力に優れており、課題のまとめ方やプレゼンテーションも、毎回とても丁寧で質の高いものでした。
この貴重な経験を通じて、学生のみなさんから多くのことを学びました。彼らの新しい発想を見ていると、自分自身ももっと柔軟に考え、仕事に取り組むべきだと強く感じました。この経験を通じて、デザイナーとして、また人としても成長できたことに感謝しています。