Hideki Inoue

DESIGNER

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名前
井上 英樹
専門
プロダクトデザイン
地域
日本
経歴
1994年入社。国内、グローバル、欧州、プロマスター、アテッサ、カンパノラ、ファッションウォッチ(ライセンス、インデペンデント他)やコンセプトモデル等のデザインを担当。プロダクトのデザイン以外に2014、2016年のミラノデザインウィークの展示を手掛ける。2019年より、CITIZEN DESIGN のアイデンティティ確立とブランド価値向上の活動に携わり、腕時計のデザインの他、デザインWebサイトやイベント等の企画&運営を担当し現在に至る。
趣味
珈琲、フットサル、家庭菜園、キャンプ
https://ms.citizen.jp/assets/2560×1440横 BEANS 3モデル

既成概念の打破

ここ何年にもわたって言われ続けていることですが、携帯電話の普及により腕時計離れが進んでいます。また、多くの人が片腕にしか着けないと考えると、腕時計とスマートウオッチが1つの場所を奪い合っているのが実情です。 そのような状況の中、「腕時計を身に着けてもらうにはどうしたら良いか」を出発点に考えを巡らせました。「腕時計は腕に巻く」という当たり前だと考えていたことをリセットして、既成概念にとらわれないアプローチから何か新しい可能性を生み出せるのではないかと考えました。

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人生のターニングポイント

デザイン部で「いいモノ共有会」という活動を行いました。テーマに沿って、それぞれ自分の「いいモノ」を1つ選んで持ち寄ってその魅力を語り、参加メンバーと意見交換を行う会です。一回目のテーマは「感情を揺さぶられたデザイン」。私は「ヤマハ ウインドMIDIコントローラー WX7」を選びました。

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引き算

当時世界最薄のアナログ式クオーツムーブメントを搭載した時計をより際立たせるフォルムとして、肉眼では詳細まではっきり認識できない精緻な処理や、より薄く見せるデザイン処理が随所に行われています。薄さをスポイルさせない引き算のデザインです。 ガラスとベゼルとの嵌合部の高さを極力低くし、ガラス厚は極限まで薄いものを採用。断面が凸型の植字の両サイドは、肉眼では判別できない程の細かなカットが施されています。また、ケースは極力側面を薄くし、ベゼル外径とケース外径を同一面とすることで、外観を構成する稜線の数を出来るだけ少なくしたフォルム。どれもとても細かなデザイン処理ですが、この小さな積み重ねによって精緻な佇まいを醸し出しています。 拡大鏡を使わないと判別できないほど細かなディテールの追求の積み重ねと、計算されたミニマルなデザイン処理によって、究極の薄さを表現したフォルムです。

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繋ぐかたち

スマートフォンとBluetooth®を介してリンクする腕時計。時間を示す時計という本質を持ちながらも、Bluetooth®という目には見えない機能が形状で表現されていて、私たちとスマートフォンを繋いでくれているように感じられます。 ケース形状はシャープかつ滑らかな造形。ケースサイドを大胆に刈り上げ、細いヘアライン面を残し、薄さやエッジ感を表現。その細いヘアライン面は柔らかいラグ足先のアールに繋がっていて、その面の流れはスマートフォンを想起させます。シャープさの中にもどこか柔らかく優しい印象があり、ディスプレイのように広くガラスが使用されていて、カットされたガラスがより一層先進的な印象を与えています。 文字板は2 時位置のサブダイヤルに表示が集中していますが、情報が整理されており、仕上げがマットで視認性も良好。複雑ながら整理され、独特なバランスを持った文字板は、高機能で新しい“計器”のような印象を受けます。

https://ms.citizen.jp/assets/011_01-11_1000 m ダイバー_01

構造消化形デザイン

このダイバーズウオッチは、まず1,000mという深度に耐えられ、かつ、その過酷な環境において確実に機能が果たせるよう設計されたコアに、いかにして魅力あるデザインを与えるのかという難題に挑んだモデルと言えます。すなわち、高深度に耐えられるよう、ただでさえ肉厚にならざるを得ないケースにベゼルの誤動作防止機能を加えたことによる「重箱構造、形状」をデザインの力でいかにまとめあげるか、が大きな課題でし た。 側面から見た様子は、目付けとミラーを使うことにより、全体に視点が集中しないよう工夫され、さらに黒い部品を挟み込むことにより、分厚い塊があるようには見えません。また、ベゼル外周部を下面に広がった斜面とし、下面を逆斜面とすることにより、無骨な金属の塊に見せず、まるでサザエやイソギンチャクのような、有機生物感を与えるに至っています。ダイバーズウオッチに海洋生物風の外見を与えた、デザインが機能と融合した好例と言えます。

https://ms.citizen.jp/assets/055_06-13_アルティクロン_01

デザインの楽しさ

 第一印象では、デザインの個性を強く感じました。全体的にワイルドなイメージがあり、形状はほとんど曲面で構成されていて、有機的な印象を与えます。細部に目を向けると、高度計があり、登山やスポーツをする人に向けた時計であることがわかります。ワンプッシュで高度計測中に方位を知ることができ、操作性にも優れています。文字板は、カラーリングや記号などが、多機能でありながら見やすく、バランスのとれた配置になっています。遊びがあるだけでなく、よく考えられた設計となっています。  このモデルには、その雰囲気からデザイナーが楽しんで製作した様子が伝わってきて、身につける人が楽しい気分になることができる要素が詰まっています。それは熟慮された構造の上に、成立していることでもあります。  遊び心がある有機的なフォルムは、自然と親しむ登山の用途にもマッチし、着用者のモチベーションを一層上げることでしょう。

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演出力

 大型ムーブメント使用時の制約を逆手に取り、大きな容積を生かした奥行きのあるダイナミックな造形によって機能を裏付けすることで、「ただならぬ存在感」を演出したモデル。  「黒」と「緑」のコントラストで構成されたデザインは美しさと時計の機能を合わせ持ちます。  ケースは受信感度に影響を与えないようセラミック材を使用し、めっきでは得られない平滑度の高い光沢感のある仕上げ処理が施されています。  文字板外周をぐるりと囲む鮮やかな緑のコイルは初代電波時計のアンテナを意識したものです。ベゼルをサファイアガラス面に配置し、あたかも浮遊しているかのような表現は衛星が周回する軌道をイメージさせ、側面からも文字板緑のコイルのモチーフの形状が確認でき、あらゆる角度から見て楽しめるようデザインされています。  時針を立体的に折り曲げ、ディスク式の針に刻まれた文字が回転する様、小さな空間に精密に組み込まれたパーツが作動し、それが正常に機能する様は都市のジオラマを腕に巻くかのようなワクワク感、ユーザーを童心に帰らせる楽しさを提供します。  時計に興味を持つ、持たないに関わらず、思わず立ち止まって見入ってしまう。そんな演出がこの時計には込められています。

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機能性追求の先に 生まれるカタチ

 1300mの防水機能を備える強靭な時計を演出するために、見た目にも安定した塊感のある正方形のフォルムです。過度な装飾を省き、必用な機能のみを追求しています。  極力側面の凹凸を無くし、グローブを着けたままでも操作できるように、ベゼルには大きな切り込みが入っています。正面は、12 時 - 3 時の1/4部分(りゅうず部を除く)を90°ずつ回転コピーした、異型モデルでは稀なフォルムであり、このモデルの特徴でもあります。  飽和潜水から浮上した際、ケースの内圧が上がり、ガラスが飛び出ないための固定用4 本ねじも見事にデザインされています。  光の届かない暗い海の中での視認性を考慮して、針は全て形状が異なり、文字板は針とのマッチングも考えられています。  過酷な使用環境での機能性を追求し、無駄を省き生まれた、シチズンが考える「機能美」を具現化したデザインと言えます。

https://ms.citizen.jp/assets/075_10-07_初電波_01

制約を個性に

 多局受信型電波時計のデザインの特徴は、文字板中央に配置されたアンテナと、それを包み込む分厚いカットガラスとセラミックベゼルです。世界初の腕時計に拘り開発したCal. 7400 の受信アンテナの制約があったからこそ、この唯一無二のフォルムが生まれたのでしょう。  もし、アンテナの制約がなく、世界初の多局受信型電波時計を自由にデザインできたとしたら、このフォルムが生まれていたでしょうか?  このフォルムが生まれた背景には、より正確な時間を刻む腕時計を生み出したいという情熱と、多くの制約があってもそれを乗り越える方法を想像し、発明する、シチズンの信念があったのです。このモデルのデザインは、「技術と美の融合」が具現化された象徴的な事例と言えます。  制約を逆手に取り、オリジナリティのある独創的なフォルムを生み出すデザイン手法は、過去のモデルにおいても用いられてきました。制約が大きければ大きい程、シチズンでは独創的なモデルが生まれてくるはずです。