腕時計の魅力
また並行して、「腕時計」と「スマートウオッチ」の価値観についても考察してみました。
画像出典:アップル Web サイト
スマートウオッチは新たな機能が加わったり、OSのバージョンアップのタイミングを機に、数年単位で「デバイス」の買い替えが行われることが多いかと思います。その都度、蓄積された「データ(写真やテキストなどの思い出)」を新しい「デバイス」に移行していきます。その使われ方から、ユーザーにとって一番大切で思い入れがあるものは、過去の自分の歩みを記録した「データ(思い出)」であり、モノとしての「デバイス」には、データほどの思い入れが生まれてこないのではないかと考えました。
それに対して腕時計は、気に入って永く愛用して頂くことが出来れば、ユーザーの想いがそこに宿り、かけがえのない存在になります。そのような腕時計は、たとえ壊れて動かなくなったとしても捨てることができない大切なモノ(存在)になるのだと思います。
これこそが腕時計の大きな魅力であり、スマートウオッチとは一線を画す価値観であると考えます。
カスタマイズ
腕時計に興味を持ってもらい、気軽に手に取ってもらう。そして身に着けることで「ワクワク」する。相棒のように長い時間を共にすることで、「愛着」が沸き、かけがえのない存在となる。このようなデザインの方向性が固まってきました。
ワクワク感が生まれ、ユーザーの相棒となるにはどうしたら良いか? 1つの答えとして辿り着いたコンセプトは、ユーザーが時計を通して自分らしさを表現できること。その手段として様々な身に着け方がカスタマイズできることを考えました。鞄に取り付けたり、ストラップやキーホルダーに装着して持ち歩いたり、ネックレスとして身に着けるなど、身に着け方や携帯の仕方を切り口としてデザインしています。
このコンセプトモデルは、新たな腕時計の可能性の「種」となる提案にしたいという想いで「BEANS CUSTOM」と名付けました。因みに、マメ科の植物にできた「種子」のことを「BEANS」と呼び、植物の「種子」のことを総じて「SEED」と言うそうです。このモデルのシルエットが、どことなくマメのような形をしていることもあり、「SEED」とせず、「BEANS」としました。
腕時計の新たな可能性の模索
正面から見たフォルムは、上下左右対称のオーバル形状となります。簡単にバンド交換ができるように引き通しバンドを取り付けることを前提としました。ばね棒も使わずバンドが取り付けられるのが特徴です。世の中に数多く流通している18㎜の通しバンドに対応することで、ユーザーが好みのバンドに付け換えることも容易です。ミサンガなどでカスタマイズして頂いても良いかもしれません。また、腕に巻く以外にも様々な身に着け方ができるように工夫しました。
ケースは、平たく丸い「そら豆」をモチーフに極力凹凸を無くし、表面、裏面共に単一の円錐面で構成されています。曲線を基調としたシンプルで厚みを感じさせないフラッシュサーフェースのデザインが特徴です。ケースサイズは、腕に巻く以外にもペンダントやキーホルダーとして身に着けた時にしっくりくるサイズとしました。
ロングライフの製品となるように、壊れにくく、作りやすいシンプルな構造としています。パーツは必要最小限であるムーブメント、風防ガラス、針、ケース、文字板、リューズ、裏蓋で構成し、ベゼルや見返しリングもありません。文字板のインデックスは植字も使用せず、ケースに印刷を施しています。
ケースを傷から守るラバーのプロテクターを装着することも出来ます。プロテクターのカラーバリエーションを用意することで、ユーザーが好きな色でカスタマイズすることも可能です。
認識票(IDタグ)のようにチェーンや革紐を使ってペンダントのように首から提げたり、鞄などに取り付けることも想定しました。裏蓋に個人情報やメッセージを刻印したり、ケース全体をキャンパスとしてレーザーで好きな絵柄や文字を刻印することもサービスとして提供したいと考えています。ユーザー自ら彫金して頂いても良いかもしれません。アイデア次第でカスタマイズの可能性が無限に広がります。
「BEANS」は、植物の種が発芽するように、腕時計の新たな可能性の種になればと思い提案しました。我々から決まった仕様を押し付けるのではなく、ユーザーが自由にカスタマイズできる余地を残し、様々な身に着け方と自分らしさを表現ができる時計です。
腕時計の新しい流儀や様式の提案
スマートフォンの「普及」やスマートウオッチの「台頭」により、特に若い世代での腕時計離れが進んでいます。腕時計に興味を持ってもらえるアプローチやスマートフォンとの共生を模索して行く必要もあると考えていました。
今後、腕時計が生き残って行くためには、我々自身の発想の転換や、新しい腕時計の流儀・様式を提案して行くことも必要だと考えます。