人生のターニングポイント

YAMAHA WX7

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2024.08.12

デザイン部で「いいモノ共有会」という活動を行いました。テーマに沿って、それぞれ自分の「いいモノ」を1つ選んで持ち寄ってその魅力を語り、参加メンバーと意見交換を行う会です。一回目のテーマは「感情を揺さぶられたデザイン」。私は「ヤマハ ウインドMIDIコントローラー WX7」を選びました。

私が高校生だった頃、『THE SQUARE(現T-SQUARE)』の音楽にハマっていました。皆さんもどこかで一度は聴いたことあるかもしれない「TRUTH」(F1グランプリのテーマ曲)といった代表曲を持つ、インストゥルメンタルバンドです。フロントマンの伊東たけしさんが演奏するウインドシンセサイザーの音色に魅了されたのがきっかけでした。それは未来の新しい楽器から発せられる音色のようで、とてもワクワクした記憶が今でも残っています。

当初、伊東さんはアメリカのコンピュトーン社が開発したLyricon(リリコン)を使用していました。見た目はフルートを縦笛にしたような金属製の銀色のウインドシンセサイザーです。ところがある日、レコード店で流れていたTHE SQUAREのLIVE映像で、伊東さんが黒く角張ったウインドシンセサイザーを演奏しているのを発見しました。これが私と「YAMAHA WX7」との最初の出会いでした。(この時、伊東さんは「YAMAHA WX7」のロゴも付いていない開発中のプロトタイプを使用していたので、私がこの楽器をYAMAHA WX7と認識するのはまだ先のことになります。)

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Lyriconは、1970年代にアメリカで開発されたアナログシンセサイザーを用いた電子楽器で、管楽器のサックスやクラリネットを模した「電子吹奏楽器」になります。「叙情的」や「感情豊かな」という意味の「Lyrical(リリカル)」の単語と「制御」の「Control(コントロール)」を掛け合わせた造語だそうです。また、シンセサイザーという言葉は、「synthesize(シンセサイズ)」=「合成する」からきていて、電子回路を使って様々な音を出す機械(楽器)のことを指します。残念ながら1981年にコンピュトーン社が倒産して製造中止となりましたが、後にヤマハがコンピュトーン社の特許を買い取り、MIDI規格に対応したWX7を開発した経緯があります。

アコースティックのサックスやクラリネットは、マウスピースに取り付けたリードを震わせて音を出します。それに対してWX7は、そのリードの代わりに演奏者のマウスピースを噛む強さを感知するリップセンサーと吹き込んだ息の強さと量を検知するブレスセンサーを介し、電気的なスイッチのキーボタンを操作して演奏します。WX7本体のみでは音を出すことが出来ないのでMIDI音源と繋ぎ、そこからアンプ・スピーカーを介して音を出すことになります。シンセサイザーなどMIDI音源にはたくさんの音色が内蔵されていますので、WX7でピアノや、トランペット、バイオリンなどの音を奏でることも出来ます。W X7 6 1920x1280 Background Transparent© Yamaha Corporation

当時、高校生の私は理数系のクラスに在籍していました。これといった目標もなく、工学系の大学に進学し将来は父と同じエンジニアにでもなるのかな・・・と考えていたのですが、このWX7との出会いが私の人生のターニングポイントとなりました。

高校2年の秋、学校帰りに立ち寄ったコンビニの雑誌コーナーで、赤い表紙の『POPEYE』が私の目に止まりました。「いい(スグレ)ものは姿(デザイン)もいい。」というタイトルのデザイン特集号でした。

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面白そうな内容でしたので早速購入し家で読み進めて行くと、レコード店の映像で見たWX7が大きく取り上げられているページを発見しました。『POPEYE』の選ぶデザイン・オブ・ザ・イヤーとして金賞が5点選出され、WX7は唯一の満点を獲得したプロダクトとして紹介されていました。初めて詳細なディテールを目にしたその瞬間、WX7のデザインに心を鷲掴みにされました。

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更に、「車やオーディオのデザイナーになりたい」という記事では、プロダクトデザイナー(記事ではインダストリアルデザイナー)になるためにデザインを学べる大学が紹介されていました。そこには、多摩美術大学美術学部 プロダクトデザイン学科、武蔵野美術大学造形学部 工芸工業デザイン学科、千葉大学工学部 工業意匠学科の第一線で活躍している卒業生と共に入試科目や実技試験の記載がありました。そこで初めて、プロダクトデザイナーという仕事があること、そして理系の学生でもデザイナーになる道があることを知りました。この出来事がきっかけで、「プロダクトデザイナーになりたい」という将来の目標ができました。

「YAMAHA WX7」の開発コンセプトは、「未来的フォルムと管楽器としての完成度の両立」だそうです。吹奏楽器として最も合理的な運指方法を考案し、デジタルでありながら「息」を使って感情が込められる細やかな演奏表現を可能にしています。

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そして、その斬新さをミニマルなデザインで表現しています。直線的な管状の筐体と、指が触れるキー部分を柔らかく有機的に仕上げたフォルム。対照的な2つの要素だけで構成された無駄のないミニマルデザインでありながら、どこか温かみを感じます。個人的には真っ黒なカラーリングと相まって、「BRAUN」製品を彷彿とさせるデザインであると感じています。

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WX7は、1987年のグットデザインの金賞を受賞し、ニューヨーク近代美術館の永久保存コレクションにも選定されています。大学時代に訪れたニューヨーク近代美術館で、WX7の実機を初めて見た時はとても興奮しました。その時から、いつか手にしてみたいと思うようになりました。そして念願のプロダクトデザイナーになりたての頃、偶然お茶の水の楽器店でWX7の中古と出会い、ついに手に入れることが出来ました。

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WX7は、新しい技術をデザインの力によって可視化させると共に、今までにない楽器のプロポーションを高い次元で具現化したプロダクトだと思います。既成概念に囚われることなく、チャレンジ精神の姿勢で生み出されたデザインであり、私もそういうデザインを生み出したいと常々思っています。

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WX7との出会によって、自分の将来や、自分のやりたいことについて真剣に考える機会を与えてもらいました。私がWX7のデザインに心を動かされたように、自分が生み出した時計のデザインによって、ユーザーの感情を揺さぶり、心を動かす。そんな仕事をしたいと思っています。「YAMAHA WX7」は、私のデザイナーとしての原点であり目標でもあります。

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繋ぐかたち

スマートフォンとBluetooth®を介してリンクする腕時計。時間を示す時計という本質を持ちながらも、Bluetooth®という目には見えない機能が形状で表現されていて、私たちとスマートフォンを繋いでくれているように感じられます。 ケース形状はシャープかつ滑らかな造形。ケースサイドを大胆に刈り上げ、細いヘアライン面を残し、薄さやエッジ感を表現。その細いヘアライン面は柔らかいラグ足先のアールに繋がっていて、その面の流れはスマートフォンを想起させます。シャープさの中にもどこか柔らかく優しい印象があり、ディスプレイのように広くガラスが使用されていて、カットされたガラスがより一層先進的な印象を与えています。 文字板は2 時位置のサブダイヤルに表示が集中していますが、情報が整理されており、仕上げがマットで視認性も良好。複雑ながら整理され、独特なバランスを持った文字板は、高機能で新しい“計器”のような印象を受けます。

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演出力

 大型ムーブメント使用時の制約を逆手に取り、大きな容積を生かした奥行きのあるダイナミックな造形によって機能を裏付けすることで、「ただならぬ存在感」を演出したモデル。  「黒」と「緑」のコントラストで構成されたデザインは美しさと時計の機能を合わせ持ちます。  ケースは受信感度に影響を与えないようセラミック材を使用し、めっきでは得られない平滑度の高い光沢感のある仕上げ処理が施されています。  文字板外周をぐるりと囲む鮮やかな緑のコイルは初代電波時計のアンテナを意識したものです。ベゼルをサファイアガラス面に配置し、あたかも浮遊しているかのような表現は衛星が周回する軌道をイメージさせ、側面からも文字板緑のコイルのモチーフの形状が確認でき、あらゆる角度から見て楽しめるようデザインされています。  時針を立体的に折り曲げ、ディスク式の針に刻まれた文字が回転する様、小さな空間に精密に組み込まれたパーツが作動し、それが正常に機能する様は都市のジオラマを腕に巻くかのようなワクワク感、ユーザーを童心に帰らせる楽しさを提供します。  時計に興味を持つ、持たないに関わらず、思わず立ち止まって見入ってしまう。そんな演出がこの時計には込められています。

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デザインの楽しさ

 第一印象では、デザインの個性を強く感じました。全体的にワイルドなイメージがあり、形状はほとんど曲面で構成されていて、有機的な印象を与えます。細部に目を向けると、高度計があり、登山やスポーツをする人に向けた時計であることがわかります。ワンプッシュで高度計測中に方位を知ることができ、操作性にも優れています。文字板は、カラーリングや記号などが、多機能でありながら見やすく、バランスのとれた配置になっています。遊びがあるだけでなく、よく考えられた設計となっています。  このモデルには、その雰囲気からデザイナーが楽しんで製作した様子が伝わってきて、身につける人が楽しい気分になることができる要素が詰まっています。それは熟慮された構造の上に、成立していることでもあります。  遊び心がある有機的なフォルムは、自然と親しむ登山の用途にもマッチし、着用者のモチベーションを一層上げることでしょう。

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構造消化形デザイン

このダイバーズウオッチは、まず1,000mという深度に耐えられ、かつ、その過酷な環境において確実に機能が果たせるよう設計されたコアに、いかにして魅力あるデザインを与えるのかという難題に挑んだモデルと言えます。すなわち、高深度に耐えられるよう、ただでさえ肉厚にならざるを得ないケースにベゼルの誤動作防止機能を加えたことによる「重箱構造、形状」をデザインの力でいかにまとめあげるか、が大きな課題でし た。 側面から見た様子は、目付けとミラーを使うことにより、全体に視点が集中しないよう工夫され、さらに黒い部品を挟み込むことにより、分厚い塊があるようには見えません。また、ベゼル外周部を下面に広がった斜面とし、下面を逆斜面とすることにより、無骨な金属の塊に見せず、まるでサザエやイソギンチャクのような、有機生物感を与えるに至っています。ダイバーズウオッチに海洋生物風の外見を与えた、デザインが機能と融合した好例と言えます。