101選目の腕時計をデザインする

Design Competition 2023

https://ms.citizen.jp/assets/BEANS_IMG01_re のコピー

2024.11.10

独自性のある商品を生み出し続けるにはどうすればいいのか?デザイナーにとっては悩ましい問題です。アメリカを代表する詩人マヤ・アンジェロウは「創造力を使い切ることはできない。使えば使うほど溢れてくる。」と言っています。私たちも創造力を鍛えるにはとにかく使い続けることだと考え、その取り組みの一つとして、社内向けのデザインコンペティションを定期的に開催しています。

2023年のコンペでは、そのデザインの出現の以前と以降に有意な差が生じるような、新たな分岐点となるデザインを提案してほしいと考えました。テーマは「101選目の腕時計をデザインする」。この“101選目”という言葉の前提として、まずデザインソースプロジェクトについて説明します。

「シチズンらしさ」を探るプロジェクト

詳しい紹介はリンク先の記事に譲りますが、暗黙知として蓄積されてきた「シチズンらしさ」を探る試みのことです。過去のモデルに含まれるシチズンらしさを言語化することで、これからのデザインに活かせる“秘伝のタレ”のようなものを抽出することを目的としています。その過程として社内に保管されている約6,000本の腕時計の中から、100本の優れたモデルを選び出しました。名称未設定 1選定基準は①シチズンらしさを持っているか。②高いデザインの完成度を持っているか。③現代に引用したい要素を持っているか。この3つを併せ持っていること。コンペ記事用2 02 のコピー選ばれた100モデルはデザイナーの綿密なリサーチによって言語化。そこから得た気づきを集約して「デザインランゲージ」としてパターン化を行いました。

コンペの評価基準

テーマの“101選目”とは、シチズンを代表する100モデルに肩を並べる腕時計ということを意味しています。101選目を選ぶのですから、デザインコンペの評価基準は100モデルと同じ条件がふさわしいはずです。ただし、100モデルを選んだ時点では「シチズンらしさ」は厳密に定義しておらず、多くの社員が直観的にシチズンらしいと感じたかどうかを基準としていました。その後、選ばれたモデルを綿密に分析し体系化することによってシチズンらしいデザインとは使用者の感情を揺さぶるデザイン、つまり「感情のデザイン」だということが導かれたため、コンペの条件もアップデートしました。コンペ記事用2 03 のコピー「デザインの完成度」についても同様に、シチズンモデルの根底に流れる造形の本質を表す8か条「シチズンデザインの本質」が分析から抽出されたため置き換えました。コンペ記事用2 04 のコピー「現代に引用したい要素」に関しては、過去モデルの選定を想定した表現だったため、未来へ向けた表現として「造形、構造、素材、技術、思想、ものづくりへのこだわりなどの観点から、後のモデルに影響を与える要素を持った時計」としました。コンペ記事用2 05 のコピー以下が最終的なテーマと選定基準です。

テーマ

「101選目の腕時計をデザインする。」

感情のデザインをプロセスに取り入れ、シチズンデザインの本質を捉えた、後のモデルに影響を与える要素を持った時計の提案コンペ記事用3 アートボード 1 のコピー

参加したデザイナーは業務の合間を縫って制作しており時間の制約がある中でしたが、最終的に17の作品が集まりました。締め切りの直前は、毎回卒業制作のような熱量と一体感が生まれます。その後、デザイナーや企画、宣伝、開発者などが集まる会場で一人7分間のプレゼンテーションが行われます。CGやアニメーション、3Dプリンターによるモックアップなどアウトプットは人それぞれ。中にはメイキング動画をプレゼンの中に仕込んできた強者もいます。3つの選定基準をもとに投票が行われ、プロトタイプの制作に進む7作品が選ばれました。

 

スタディモデル

選ばれた作品はいずれも、プロトタイプという枠に収まらない完成度と、これまでにない独創的な提案を含んでいます。それでは7つのスタディモデルをご紹介いたします。

Prm DNA Im G05 のコピーPROMASTER E210 RACING CONCEPT

レーシングカーやバイクなどの機械が持つ独特の密度や精度、緊張感を腕時計に落とし込んだモデル。「誇り」という感情をデザインの出発点にしています。搭載されるCal.E210は、2004年に「クオーツで機械式クロノグラフを超える機能を持つ」という思想を基に設計された、技術者のプライドが生んだムーブメントです。あえて20年前に開発されたムーブメントを搭載することで、技術者の「誇り」を現代に蘇らせました。

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Im G0216 05 Re のコピーCQ CUSTOM

グローバル化や情報化社会の成熟、パンデミックや紛争といった、先行きが不透明で、将来の予測が困難なVUCA時代。ただひたすらに今を生き抜く「強さ」を自ら持ちつづけるためのサバイバルツールのような時計です。「強さと愛嬌」という一見相反するスタイルを調和させたシチズンらしいユニークなバランスのモデル。

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New Kinder Time Im G01 ReKINDER TIME

毎日の生活に馴染み、使うほどに愛着が沸く、子どもから大人まで長く使える時計。シチズンが1960年代に発売したキンダータイムは、子どもに寄り添う画期的な時計でした。「小さな子どもでもスラスラ読める」という思想から生まれています。そんなキンダータイムをヒントに、子どもから大人まで幅広い世代に向けた時計をつくりました。子ども用だからと言ってカラフルな色や可愛らしいデザインと決めつけることはせず、大人になっても使いたいと思えるデザインを追求しています。

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Inherit Im G01 Re のコピーHand to Hand

修復してでも大切に使っていきたいという想いが湧くような、“磨きなおし”ができる時計。研磨しやすいように足が外れる構造にすることで、素朴な温もりのあるコロンとした形の時計が生まれました。文字板の白蝶貝には丁寧さを感じられる装飾が施されており、身近に置きたくなるような優しい印象を与えてくれます。共に歴史を刻んで、いとおしさがさらに深まっていく「感情のデザイン」の提案です。

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Rd 8 Im G02 Re のコピーRD-8

アウトラインはプリミティブな造形でありながらも細部に遊び心のあるディテールを詰め込んだ、シチズンらしい愛嬌のあるモデル。カスタム可能なアーマーパーツは余白を大きく取っており、それをキャンパスとしてロゴや銘板などをグラフィカルに配置しています。見たことはないのに、どこか懐かしさを感じさせる未来の時計です。

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Beans Im G03 Re のコピーBEANS CUSTOM

スマートフォンの普及やスマートウオッチの台頭により、腕時計離れが進むなか、腕時計が生き残って行くために、新しい腕時計の在り方を提案するモデル。身に着けることで「ワクワク」し、相棒のように長い時間を共にすることで、「愛着」が沸く。そんなかけがえのない存在となる時計を探求し辿り着いたのが、ユーザーが時計を通して自分らしさを表現できることでした。鞄に取り付けたり、ストラップやキーホルダーに装着して持ち歩いたり、ネックレスとして身に着けるなど、様々な身に着け方がカスタマイズできます。

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Fish Im G01 のコピーCOUNTER WATCH

釣り人に焦点を当てた、日時と釣果を可視化できる機械式腕時計。シチズンならではの時計デザインの文法の1つ「特定のユーザーに寄り添ったデザイン」をヒントに、アナログカウンターのクリック感を伝えることで釣果をカウントする心地よさを組み合わせました。時計のムーブメントだけでなく、カウンター機構もメカニカルにこだわった、達成感をカウントする時計です。

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これらのスタディモデルは2024年6月に東京都千代田区の九段ハウスで開催されたシチズンのブランド100周年記念イベント「THE ESSENCE OF TIME」で展示されました。


招待したクリエイターやプレス関係者からも多くの賞賛やご意見をいただき、実り多き展示となりました。そのままのデザインで量産できるかはわかりませんが、このスタディが次なるデザインの糧になることは間違いありません。今後も、こういった通常のモデル開発だけでは得られないクリエイティビティを高められる活動を、途切れることなく続けていきたいと思います。