こどもの「時」を考えてきた
シチズンは1968年にキンダータイムという子ども用の時計を発売しました。「小さな子どもでもスラスラ読める」という思想のもと、時間帯を扇状のグラフィックで示し、時針・分針とそれぞれが示す先の色を関連付けた、子どもに寄り添う画期的な時計でした。今でもその思想とデザインは色褪せず、子どもから大人まで多くの人々を魅了しています。当時この時計は、子ども用にしては立派すぎる機械式ムーブメントが使用されていました。そこには、子どもにも大人と同じように良いものを使ってもらいたい、という想いが込められていたのかもしれません。
大人になっても使いたいと思えるデザイン
新しいキンダータイムは、プレーンヨーグルトの様なまろやかな存在感を目指しました。個性が強すぎず、どんな素材にもふわっと馴染む、大らかさを時計の中に感じさせたいと思いました。そして、子ども用だからと言ってカラフルな色や可愛らしいデザインと決めつけることはせず、大人になっても使いたいと思えるデザインを一から追求しました。デザインする上で大切にしたポイントが4つあります。
①長く使える時計であるために、出来るだけ加飾せず、ミニマルで時代に左右されない形であること。
②シンプルな中に愛着が沸くポイント、チャーミングさがあること。
③金属の塊の時計ですが、出来るだけ冷たさを感じず、ガラスや陶器の様に温もりを感じ、使っていて心地よい造形・質感であること。
④人に寄り添うという観点から、「時が読みやすい」という時計にとって当たり前の機能は外さないこと。
まんまる・ぷっくり
正面から見るとまんまるな形のこの時計は、ケースサイズ32mmの程よい大きさで、子どもや大人の女性の腕にも馴染みます。ケースサイドはコロンと丸みがあり、ガラスはぷっくりとしたボックスガラスで、張りのあるまろやかな形となっています。
長く使ってもらえるように
長く使ってもらえるように、くたびれたら手軽に交換できる、引き通しの革バンドにしました。引き通しにすることで、裏蓋の金属の冷たさも腕に伝わりづらくなります。また、できるだけ金属感を無くしたいと思い、サラサラなホーニングの質感にしました。光をやわらかく反射して、サラッとしていて心地よい質感となっています。
チャーミングな数字
アラビア数字は、昔のキンダータイムに使われていたものをそのまま使用しています。線が細く、儚げでどこか愛嬌のあるチャーミングなアラビア数字は、一目見た時からじわじわと愛着が沸き、長く愛されそうな不思議な魅力を感じました。また、「時を読みやすい」ということも大切に、できるだけ長めの針を付け、夜でも時間が分かるように、インデックスと針には夜光を入れました。
持ち主との新たなストーリー
例えば、使い終わったランドセルを時計の革バンドにリメイクして、持ち主と新たな時を刻むプロダクトに生まれ変わるといった、時計と身に着ける人との新たなストーリーを想い描きながらデザインしました。長く使う事で、その時計と持ち主とのストーリーが生まれ、その人の色になっていくような時計になればいいなと思います。